疾風の騎士、雷神の姫

第四章第四節

 「天にいまし十二の竜王が一人、風の竜王に請い願わん!! 我が身、我が力を持ちてその力を現せ!! エルウィンド!!」

 轟っ!!

 B級風系攻撃魔法のエルウィンド。
 しかし、その威力は普段の時の軽く倍は越えていた。
 舞い上がる疾風が真っ直ぐにワイアットに襲いかかる。

 「そんなもの!!」

 バシュウッ!!

 急いで剣を拾ったワイアットが、背中に回していた大盾を翳し、エルウィンドを受け止め、霧散させる。
 上級アーマークラスの習得する防御技、スキル「大盾」である。
 しかし、ほっとしたのもつかの間、連続で放ったエルウィンドがワイアットの鎧の上で炸裂する!!

 ドクォゥン!!

 「ぐはあっ!!」

 弾丸の如くコンパクトに、そして威力を内包した風の塊の直撃を受け、たまらず倒れ伏すワイアット。
 そこにゲイルが近づく。

 「貴様は楽には殺さない……貴様が今まで女性にした仕打ち、イセにした仕打ちを思い出させるように、嬲るように一発一発食らわせる。己の犯した罪を思い出させて、殺してやる!!」

 倒れながら苦しんでいるワイアットに向かって、さらにエルウィンドを唱えようとした時に、背後から殺気の様な物がイシスに向かうのを感じ、一足飛びに飛んで、イシスを庇った。

 「誰だ!!」
 「……怒りを見せても、冷静に周囲に気を配る、なかなか出来ないことだ」

 そう言って姿を見せたのは、金髪で弓を携えた壮年の男性と、フリージ系の銀色の髪を鮮やかに結い上げた、タイトなドレス姿の女性である。

 「…………ま、まさか」

 ゲイルが反応する前に、ワイアットが顔色を蒼白にして平伏する。

 「イ、イシュタル様!! ファバル様!!」
 「や、やはり……」

 そう、男性の方は、ユングウィ公爵で、元イチイバル継承者のファバル。
 女性の方は、かつて「雷神」とまで言われた、トールハンマー継承者にしてユングウィ公爵夫人のイシュタルである。
 イシュタルが口を開く。

 「ワイアット。醜態の数々、確認させて貰いました。追って沙汰あるまで、フリージ城にて謹慎してなさい」
 「し、しかし……イシュタル様!!」
 「セリス王からの委任状がこの者達に下されていることを知らぬ訳でもないでしょう。そなたは、操られたとはいえ反逆者の一翼を担ったのです。その場に斬刑に処せられても文句を言えないところを……なにか釈明でもおあり?」

 丁寧な口調なれど、その気迫は、かつて雷神と呼ばれた頃そのままに激烈なものであった。
 へなへなと頽れるワイアットを、兵士達に拘束、護送させると共に、ゲイルとイシスの方に二人が近づいた。

 「お父様……お母様……」
 「イセ……良く無事で……」

 ファバルがイシスを抱きしめる。
 その横で、イシュタルがゲイルの方に向き合う。

 「貴方が、イセの守り手ね」
 「あ、は、はい……ユグドラル警察所属の、ゲイルと申します」

 そう言って片膝を付いて挨拶をしようとしたゲイルを、イシュタルがとどめる。

 「お立ちになって。別次元とはいえ、可愛い従妹の息子ですもの」
 「は……」
 「流石、風の聖戦士の正統なる後継者。あの様な魔法の使い方までも出来るとは、よほど、研鑽を積んでらしたわね」
 「光栄です。誉めて頂けて」

 かちこちになるゲイル。
 いきなり思い人の両親がでてきたのだから当然であろう。

 「そんなに固くならないの……で、ファバル? どう? 彼は」
 「むう……」

 イシスから身体を離したファバルがうなる。

 「能力はさっき見たとおりですし、考えもしっかりしてるし、イセには勿体ないくらい。異世界でなかったらそのままフリージ女公爵附馬にしたいところだけど……」
 「分かってる。さっき見せかけの殺気を放ったら、怒りを保持したまますぐにイシスのカバーに入っていた。本物だぜ、こいつは」
 「そうよね……イセ、運命に感謝なさい。この様な方と巡り逢えたことを」

 二人の言葉に、ゲイルとイシス、両方の顔が真っ赤になる。
 そんな二人を、ファバルとイシュタルは微笑ましげに見ていた……。
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