疾風の騎士、雷神の姫
エピローグ
かくして、一連のフリージ城の争乱は終結を向かえる。
首謀者の長老連のうち、ユービス侯、トーマス伯は死刑となり、封土は没収となった。
ワイアット伯は利用されていたと言うことで罪一等は減じられたものの、爵位は剥奪、封土は10分の1とされ、無期限の閉門蟄居とされた。
そのほかの、投降した正規兵には罪を不問にしたため、フリージ城は程なくして、平穏な時を取り戻した。
そして、イシスは公爵位をイシュタルに返上して、供の者を付け、しばらくの間修行の旅にでると言うことが発表された。
その供の名は、シレジア王国から派遣された、元フリージ公女ティニーの猶子待遇とされたマージファイター、ゲイルと記録にはあった……。
異次元仮想空間で、向き合っているゲイルとイシス。
公式の記録ではそうなっていたが、その実は、ゲイルの世界への修行に名を借りた、同棲生活であった。
ティニーとセレナに連れられたイシスが、ゲイルに言う。
「『トールハンマーともっと親密になるために、勉強をする必要がある』と、おっしゃられて……ほら」
とイシスが指さしたのは、かなり大がかりな荷物であった。
「??? ど、どうしたんだ、この荷物? 何が入っているんだ?」
「当座の荷物ですわ。しばらく帰ってくるなと言われてしまいました。セレも、かくまってくれないって」
そして、心底困った表情をするイシス。
「よくわからないのです。怒られているはずですのに、お母様笑っていらっしゃるのですもの」
「あ、ああ!! そう言うことか!! 全く……イシュタル様もそう言うことするか」
ゲイルの叫び声に、怪訝な顔をするイシス。
それに構わず、ゲイルはイシスに言う。
「……イセ、俺の所に来るか?」
「……はい?」
驚愕を示すように目を大きく見開くイシス。
「居るところがないんだったら、俺の所に来いよ……と言うか、来てくれ。一緒に暮らそう」
「あ、あの、あの……ゲイル様?」
「つまりは、イシュタル様が言いたかったのは、そう言うことだ」
「……? と、言いますと?」
まだ分かっていないイシス。
そのイシスに向かって、顔を真っ赤にしながらゲイルが言う。
「『数年間暇をやるから、ゲイルと仲良く暮らしなさい』つー意味だよ……自分で言って照れてりゃしかたないがな」
「……私に、ゲイル様と暮らせと? そんなこと……ふつつかものです」
「構いやしないよ。俺の父や母も喜ぶ。それに、俺の世界にも君の母上は存在しているしな」
ゲイルの世界にも、イシュタルは生きていた。
そして、同じファバルを夫として、ジュチとフレイアという兄妹を産んでいる。
「何のお世話もできません。困りましたわ……お母様やばあやからいろいろ教えてもらうべきでしたわ」
おろおろしながら言うイシス。
しかし、ゲイルは意に介さなかった。
「今学べばいいさ。楽しいぞ。これからは。もっと、気楽に考えればいいさ」
「……おそばにいてほんとうによろしいのですか?」
「良くなきゃ、こんな事はいわんさ。俺の世界に来てくれるか?」
「…………………………はい」
イシスの、頬を真紅に染めながらの返事に、ゲイルが歓声を上げる。
「決まった! じゃ、行こう。楽しく、行こうな」
「はい」
ゲイルの言葉に、イシスが身を寄せた。
「あ、荷物半分持っていただけますか〜?」
イシスの言葉に耳を貸さず、ゲイルは全ての荷物を背負い、そしてイシスを両腕に抱え上げる。
「きゃ……」
思わずしがみつくイシス。
「さ、行くぞ、イセ」
そうイシスに言った、ゲイルの表情は、これまでになく、輝いていた……。
そして、しばらくの後……。
イシスがこの生活に慣れたころ、妊娠の事実を告げられる。
すでに3ヶ月になっていたイシスのお腹には、二つの生命が宿っていた。
そして、丁度7ヶ月後……異次元仮想空間にて、設備の清掃等をやっていたときに躓きその拍子で、陣痛が始まる……。
「生まれましたよ、男の子と女の子の双子ですよ」
看護婦からそう聞かされたとき、ゲイルの全身から、力が抜けたような気がした。
矢も楯もたまらず、病室に戻ったイシスの元に行く。
「イセ……よく頑張ったな……」
「ゲイル様……ありがとう、ございます」
少々やつれながらも、笑顔を見せるイシス。
その笑顔に、締め付けられるような痛みを覚えるゲイル。
思わず、涙がこぼれ落ちる。
「本当に、よく……」
「泣かないでくださいまし……ゲイル様、子供達の名前、いかがします?」
「名前……か……」
言われて沈思し、ふと、思い浮かんだ言葉。
「ヴァーユと……ステラ。男の子はヴァーユ。女の子は、ステラで、どうだ?」
「……素敵な名前ですわ……ゲイル様、そうしましょう」
異なる次元の二人の間に生まれた双子達。
新たなる世代は、ここから、始まる……。
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