疾風の騎士、雷神の姫
第三章
ユグドラル警察本部庁舎の地下1階。
そこに、異次元仮想空間に通じる次元の扉があった。
その前に、ゲイル、マーリン、ジュチ、クラウド、そしてノイエとオードリーとその恋人で、先遣隊の一人であったアルフォンスがいた。
アルフォンスもこの話を聞き、快く協力したが、一人だけ後始末の補佐として置いて行けと五人に言って、厳正なるジャンケンにより、ノイエが貧乏くじを引いたのである。
「うーむ……」
「そう腐るな、ノイエ。今度はお前にも頼むから」
「こ、今度って……第一、マーリンはこれで二度目だろ? 替わってくれてもいいじゃねえか」
「マーリンはみんなの軍師役だ。第一、この中で一番頭の回転が速いのはマーリンだろう。それに、あいつが行かないと、もう一人実行部隊が増えないからな」
「なんだよ、それ……」
憮然とするノイエ。
その頭をぽんぽんと叩くアルフォンス。
「ま、留守居も立派な役目の一つだ。その代わり、ゲイル、失敗はゆるさんぞ」
「分かってます……絶対に……」
「で、だ。今回、彼女も連れて行け」
そう言って、紹介したのは、マジカルグローブの職人の中では、随一の腕を持つメル・ソープであった。
今回、魔力のかねあいがかなり厳しいところでは、最大威力を出せるように、マジカルグローブの調整が必要となってくる。
彼女はその為の役目であった。
「よろしくね。これも研究のためだから」
「実験材料かい……」
そう思ったとか思っていないとか。
そして、オードリーがゲイルに言う。
「ゲイル、セレナから伝言よ。『ティニー様からの伝言をお伝えします。ゲイル、任務が終わったばかりで大変でしょう。本来なら私達で処理すべき事なのに、あなたが別次元での私の息子であると言う事からも心苦しいことです。せめて、あなたが思いきり動けるように援護いたしましょう。次元の扉は、こちらではシアルフィ東の岬に開きます。そこでミーズ辺境伯、ジークフリートが出迎えてくださることになっています。ユングヴィでまた詳しいことをお話ししましょう。会えることを楽しみにしています。私の息子に』との事よ。色々な想いを受けているのだから、しっかりやりなさい」
「分かりました、オードリー先輩」
ゲイルが頷く。
そして、それを合図として、四人は、次元の扉を越えた。
そして、仮想空間で、この前、協力を申し出た四人と合流する。
が、合流したのは、四人ではなく五人であった。
「お久しぶりです、セレン様」
「マーリンさま、怪我が無くて良かったですわ」
『な、なに!!』
マーリンを除く三人が驚きの声を上げる。
マーリンの婚約者で、別次元のシレジア王国第一王女であるセレン。
実は彼女も、マーリンからの知らせを受け、かつての恩義を返す好機と、彼女も参加を申し出たのである。
無論、向こうの世界のセティ王とティニー王妃も、かつて悲しい別れをした従姉であるイシュタルの娘が危機に陥っているという話を聞き、マーリンが参加するならば、と言う条件付で参加を許可したのである。
「なるほどね……これはマーリンがいないと参加せんわ」
呆れたように言うジュチ。
「ま、そう言うことです……」
「なんにせよ、味方が増えたのは嬉しい……セレンさん、協力、感謝します」
「ゲイルさまもイシスさまもこの前、わたくしが捕らえられたときに奪還に来てくれたのですから、お助けしなければ罰が当たりますわ」
ゲイルの感謝の言葉に応えるセレン。
そうして、都合10人となった実行部隊はさらにイシスの世界の次元の扉を開けて、イシスの世界に突入した。
到着したシアルフィ東の岬でジークフリートとその配下の部隊と合流し、二時間ほどでユングヴィ城に到着する。
そして、ゲイルはこの次元の母とも言える、シレジア国王王妃のティニーと対面した。
「……は、初めてお目に掛かります……ティニー様……」
「……貴方がゲイルね。初めまして。おかしいわね、確かにシレジアには私の息子がいるのに、ここにも、別次元とは言え、私の息子や、娘がいるなんて」
ゲイルと、セレンのことを指していた。
「でも嬉しい。別次元の私の息子や娘が、こんなに立派に育ってくれているのだから。ごめんなさいね、迷惑を掛けて。そして、お願いね。今回この世界のシレジアは余り表だって動けないの。向こうに悟らせないために、私は極秘で動いているから」
「分かりました」
「その代わり、セリス陛下の委任状を持った使者が夜明け過ぎには到着することになっているわ。彼も今回、あなた達と同行するから」
「了解しました」
「……それじゃ、こちら側の準備が整うまで、お休みなさい。休息を取っておかないと動けるときにも動けないから、ね」
ティニーの一声で、作戦人員はそれぞれ部屋を与えられて、休息を取った。
その中で、メル・ソープだけが、マジカルグローブを調整するために夜を徹して作業する。
休息を取るなかでも、やはりゲイルはまんじりとせず、ユングヴィ城の城壁に寄りかかり、夜風に当たっていた。
その側に、近寄る影が一つ。
「マーリンか……」
「駄目じゃないですか。寝てないと。特にゲイルは明日の主役。休息を取っておかないと説得できるものも出来ませんよ」
「分かってはいる、が……」
「心配なのは分かります。が、それがゲイルの足を引っ張る枷としてどうするんです。失敗が許されるほど、今回の任務は甘くない……大丈夫ですよ。イシスさんは無事です」
「……?」
「結婚式を大々的にやる以上、新郎は手を出さないようにしているでしょうから。世間体もありますし」
「あのなあ!!」
マーリンの言葉に激高するゲイル。
が、それは微笑みに代わる。
「……全く。怒らせて緊張を解かせるとはな」
「この手が一番と思いましたので」
同じように微笑むマーリン。
が、打って代わって、真剣な顔になる。
「今回は、妨害もさることながら、イシスさんの心を、溶かさないといけません。イシスさんが真にゲイルの元に来るようにならなければ、オードリー先輩の言うように、長老連と何ら変わりありません……心を、率直に、ゲイルの心を、表わすのです」
「俺の心、か……お前ほど、口は達者じゃないがな」
「達者でなくても、構いません。要は、どれほど、イシスさんのことを思っているか、それを伝える術は、言葉もですが、ゲイルの内包する魔力も、一つの手かと」
「魔力……なるほどな……」
魔法を行使する者は、魔力に自らの思いがこもるときがある。
それは、その時の行使者の精神状態や思いを如実に示すと言われている。
神器継承者たるイシスならば、逆に魔力による説得がかみ合うと、マーリンは考えていた。
それを、ゲイルに告げたのである。
「分かった。助言、ありがとよ」
「さあ、寝ましょう。もうすぐ、夜明けですよ」
「分かった。お前も、セレンさんの元にいてやれよ」
ゲイルの軽口に、マーリンが思わずつんのめった……。
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