ちう
驪龍の昔話が続く。
「母・露虹は角なしであったが、確実に龍の血を持っていた。だが天亮は、遠く他国から流れてきた先祖の血を持つ生っ粋の素人間だった。確実に俺より早く老い、死んでゆく。龍にくらべれば呆気無い程の一生を、短いと嘆くことなく、いやかえって、短いなりに濃い生き方をしようとして、俺はそれに惹かれた。
父が、同じくこの天地のはざまに住むものとして、角なしや素人間を軽蔑したりしない人となりだというのは、いずれ誰かから聞いてわかっていると思う。俺はその心が有り難かったから、その心を引き継ぎたかった。兄のように。
だが娘々は、天亮とのことを、劣った血どうしの同病あい哀れむ体たらくだと、官吏一同の前で笑った。俺は、天亮を兄に…兄のところなら、後ろ指をさされることはなかったから…預けて、麒翔の姿で、街に出て逢うようになった。紫虚閣に入れたかったけれど、母がそうされて受けたことを思うと、それはできなかった。
だが、娘々の命を受けた彪龍一族が、見えない場所で天亮を苦しめていた」
重いため息がしばらく話を途切れさせた。美麗は、美麗なりの価値判断基準をもって、中断直前の驪龍の言葉に返す。
「龍宮殿には何も関係のないことと思えますが」
だが驪龍は「一朝一夕に理解することはできない程根の深い問題さ」と笑った。
「こちこちの龍には、素人間と同じ空気を吸うこと自体がたえられないんだ。龍王の妻の一人だったから手のだしにくかった母のときと違ったしね。
俺は天亮を守るためにできる限りのことをしたつもりだ。でも、天亮を龍の世界にとどめておくことは、できなかった。
最後に行き着いたのは、この楓露山だった。絢龍公主は客殿の一角を貸し与えてくれた。
月並みな途中経過だろうがね、彼女は身籠っていたよ。素人間は子を生むまでに龍の四倍はかかるそうなんだ。
だが」
「だが?」
「月並みな結末さ。わかるだろ?」
美麗は少しだけ言葉を飲んだ。
「…亡くなったんですか?」
「龍宮殿の前で、彼女の切り刻まれた死体が見つかった」
それが、「思い上がった素人間の末路」なのさ。驪龍はまた話をとぎらせた。彼の気配がぞわりと動く。それが痛かった。連れ合いを失った傷が開いて、その血が全身にかかるようだった。
「…俺はそのあと、しばらくは、誰にも会わなかった。紫虚閣ではフリだったけれど、本当にあんな感じだったんだ。
そこにいち早く目をさました聖闘神龍祥智覇があらわれた。八龍神の何たるかは俺も十分知っていたからね、一柱で一国を支配しうる龍神の力をもってすれば、もしかしたら、と。
だが、それで天亮を失った穴が埋まるわけじゃない。
龍神に引き摺られているわけじゃないんだ。
お前を」
そこまで驪龍が言ったとき、二人のからだはかき混ぜられるような感じがした。
「!」
「結界が解けた!」
仁羅の声が急に近くなった。
理由は分からなかった。とにかく、ほんの一瞬だったが、龍神の力を得た娘々が発していた、他の龍神と珠のあいだの障壁が消えた。楓露山の露台から、おのおののよりましを求め、珠が飛び去る。
そのうちの一人、聖恵神龍讃礼覇のよりましたる男は、龍宮殿・豊楽閣にいた。
庭を散策しながら詩文の一つでもひねり出そうとしているのか、だが名句とは縁遠そうに天を仰ぎ、ため息をつく。満月に限り無く近いその光におわれるようにしながら、それでも明るい星はちらほらと輝く。
「美麗が言っていた、『降るような星空』とはちょっと違うな」
そんなつぶやきの前に、礼覇の珠は月をも凌ぐ輝きとなってあらわれた。男は反射的に袖で目をおおう。
「当代の礼覇よ」
光の声は厳かだった。
「時がきた。楓露山に集うがよい」
「…龍神? 私が、八珠龍神?」
顔をあげ、男は裏返った声をだす。光は「いかにも」とうなずくようだ。だが、男はかぶりを振った。
「それは何かの間違いだ。私にそんな器量はない。命惜しさに罪に怯えて生きる男に!」
「償いは宿命にかえられる。とおきみおやにより、お前の罪は洗がれよう」
男が光を見た。その瞬間、光は男をおそう。
「わっ」
男は我が身を守ろうと身を縮めた。だが、龍神の長い長い歴史と記憶が流れ込んでくる。男は光がすべて自分の中にしみ込んでから、おもむろに向き直った。
「楓露山、か」
男は懐から矢立てを紙をとりだした。一筆、五言絶句で辞表をしたためたあと、庭のあずまやにそれを冠と一緒に置くと、閣を飛び出す。
恐いくらいの月の光に、二対の角が輝いた。
聖立神龍和信羅のよりましを求め、真っ白な光を放ちながら珠は西に飛ぶ。
女はそのとき、一日の仕事をおえ、卓につき、伸びをひとつしたところだった。
「探したりし、わがとおきえだはよ」
光の中に信羅は立ち、女の前に姿を見せた。女はぎょっとして立ち上がる。
「妾は聖立神龍和信羅… 国のみだれぞ、」
「…龍神?」
「いかにも、お前様は、とおきみおやのお引き合わせたる妾のよりまし」
「私が?」
いかにも信じられない、あるいは悪い冗談? と言うように、女は言った。
「龍としてもっと真っ当なのが選ばれると思ってた」
「よりましをきめるのは角の有る無しではない」
龍神は微笑んで、女を抱き締めた。
「お前様の内なる怒りと愛しみとが、みおやに守られんことを」
あらわれた二対の角は軽かった。大きな意志と勇気が満ちた。
「桂芳! 桂芳!」
最後となる龍神・聖律神龍誠義覇は、意外にも楓露山にいた。
目を細めて、月の光に消えそうな星空を見ていた。客殿の前の庭で、一ふりの長剣を持ち、体内の何かが滾るままに、一さし演舞を舞ったあとだった。
山頂の露台の祈りの声は幽かに聞こえていたが、その祈りとひときわ高くなったとき、山全体が震えるような感覚がした。迸った光の一つが、黄金の固まりとなって、男の身の中に刺さってきた。
「!!」
衝撃があった。流れ込む龍神の歴史、記憶。光をまとって見えてきた義覇の顔は、何となく自分に似ている気がした。
「当代の義覇よ、目覚めの時がきた」
男は、素直に、自分が龍神であったことをよろこんだ。このときに生まれ合わせたのをよろこんだ。
「覚悟はできている。お前の力を欲していた。」
「おう」
つきあがる何かが、男を動かした。
ふたたび翻した剣の身が白く輝いた。
もちろん娘々は、それを察していた。無意識の一瞬をついて、先方は一気に動き始めたが、あえてそれを追撃しなかった。
「所詮烏合の衆と言うものよ」
ほほ、と艶かしく笑った。そんな彼女は竜宮殿の中央・凌雲閣の燕寝にあり、瑠威趣龍とからみ合っている。
「戦を企てるとて、戦力はほとんど妾の手の内にある。すぐに楓露山にお戻りいただくことになろうかもよ。当代のよりましの身を失うてな」
「御意にございます、万歳翁」
燕寝の四方は帳と御簾とに囲まれており、その外側には彪龍風瀬子(芙龍公主の夫)がいる。
「風瀬、なにもそのように畏まることはない。お前と妾は共に龍神のよりまし、遠慮はない」
娘々の言うとおり、彪龍にも、龍神の二対角がましましている。とにかく、彪龍は、姿の見えない娘々に対して、片膝ついた姿勢を崩さない。
「さりながら、私は万歳翁より公主を任せられた身、義母としての礼は欠かぬべきと存じます」
「かたじけないの、お前の心遣い。
ほんに、これほどかしづかれながら、芙陽は」
娘々はふう、とため息をついた。言葉のように娘を思い遣ってか、はたまた瑠威趣龍の技にふるえたか。彪龍はいっそう思いつめた顔をした。
「万歳翁、お気に病むことはございませぬ。存外のお計らいにより夢叶うた今、私は公主をお世話申し上げられることが幸いでございます」
この彼の言葉に嘘はないようだった。
数年前、芙龍公主をつれた娘々が、新年の行啓とて実家に数日留まったときに、時期当主とかしずかれていた彪龍が公主をみそめ、成人し当主を継承するようなときになれば公主の降嫁なればよいと切々に訴えてきたのだった。特に反対するような理由も見えなかったので、その要望を娘々は入れることにしたが、家臣から言い出したことに応じて、となると、公主の矜持の問題になるので、彪龍の当主継承の時、娘々が思い付いたようにして降嫁させたのが実際のようだ。
彪龍家では当主以下が、この新妻をそれこそ下にもおかず大事にしていたが、芙龍公主本人は塞ぎがちだと言うことを、つけてやった侍女をとおして娘々も親心を揉ませていたのである。
二人に、身分の差による気兼ねと言うものがあるとは考えられない。「すぐと懐妊が確認され」「やや早産ではあったが」無事女児が誕生、娘々直々に「永寿」の名を与えた。だから娘々も安心していた。当然、実情を知ることはない。彪龍は…
「ただ、かねてより万歳翁にも御心配いただいている公主のことについては、私どもにまだ何か落ち度のある証、見つけ次第鋭意ただしていく所存ではあります」
あくまでも義理堅く答えた。
「そうしてやっておくれ、風瀬。そう、あの子は雑技が好きだった、時には喚んで和ませておくれ」
娘々はそう言ったが、そこまでで彼女の理知的な気配は消えた。
あとは燕寝の中の様相を察して、彪龍は一礼してその場を去った。
楓露山には、神託と言う先祖の道しるべを求めて老若男女が集ってくる。だが今日に限っては、霊山によけいな気が混じり込むことをよしと判断しなかった絢龍公主の配慮によって、例の面々と公主本人と、限られた神官しかいなかった。珠に導かれた龍神とそのよりまし達とか、無事この楓露山にまで来られるようにと、絢龍公主は現在も祈祷の熱をゆるめていない。そのかたわらで、次期別当の識龍公主は、自分の周りをつむじ風のように天地の気が荒れている気配に圧倒されてきょとん、としている。
客殿で仮眠をとったあとの美麗のところに、青龍がやってきた。
「ひさしぶりに沙尚(沙龍公主)の夢を見たよ」
と言う。そう言えば美麗も、挨拶する暇もなく龍宮殿を出てきてしまったことを思い出した。
「お元気でいるでしょうか」
「そうならいいがな」
じつは青龍は、沙龍公主も離宮に連れ出そうとしていたのだ。だが公主はそれを断わった。
「私までいなくなったら、あの子はどうなるの?」
それまで、主の気性柄、幼児とはほとんど無縁と思われていた後宮・明鏡殿も、今はおもちゃが飛び散り、その上を、青龍兄妹にとっては一応末の妹になる小公主が駆け回っている。聞けば、先日卵からかえったばかりだと言う。
「娘々は本当に形だけのことしかしないわ。このことを伝えたら、名前は私がつけるように、世話も私がするように、これから政務の方が忙しくなるから、この子で困らせることのないようにって、言ってきたわ」
娃麗って呼んで。呼ばれてやってきた小公主…娃龍公主の頭を撫でる沙龍公主には、かつての気っ風のよさに陰がかかる。美麗の名前の半分をもらったと言う話をあとになって聞いて、美麗本人は汗顔しきりであったが。
「親を選べない子供って、本当に可愛そうね。娃麗はこんなにいい子なのに、娘々は瑠威趣龍に逢うことばかりに夢中になっている」
「それならなおさら、我々のもとで」
娃龍公主の行く先が本当に心配だ、そんなことを言う沙龍公主をなんとか自分の方に向かせようとする青龍だったが、沙龍公主は
「私のことは心配しないで」
と言った。
「いや、照誼大姐(照龍公主)のもとに、今すぐ身を寄せるべきだ。その子と一緒にね。大姐は娘々とは断絶しておられる、豊楽閣なら娘々も簡単に手を出せまい」
「…」
沙龍公主はしばらく考えて、
「ええ、今すぐにとは言えないけど、そうする」
と歯切れのない返答をした。
「でも、私が龍宮殿にいられる間は私が娃麗のそばにいてあげたいの」
「?」
青龍は、沙龍公主の言葉がすぐには飲み込めなかった。
「どういうことだ?」
「芙陽が彪龍家に嫁いだから、私にお鉢が回ってきただけなのかも知れないけれど、私、降嫁させられるかもしれない」
「え!」
「しかも、ナテレアサに」
ナテレアサと言えば、瑠威趣龍の出身国である。彼の実家・ソニカーヤ家が国王家にも匹敵すると仰ぐ名家ウィンダランド一族の当主の第二夫人あたりに押し込むつもりがあるらしいのだ。明鏡殿に出入りする侍女の一部に、娘々の気がかかり、そう言う準備が非公然にすすめられているらしい。
「娘々は、大哥達を攻め滅ぼすつもりなのよ。軍隊の一部が大哥達に流れるかも知れないと言うことを考えて、その穴をウィンダランドの私兵で埋めるんだって。私はその代金みたいなものよ。もちろん、こっちが娘々の思うように言ったら、ウィンダランドが向こうで国王を排斥する手伝いをするらしいのよ」
そういう娘々の話に耳を傾けないできたけれど、もう逃げようがないみたい。まるで意志のないもののように自分が扱われていると思うと自分がみじめになってくる。沙龍公主は手で顔をおおった。娃龍公主はそれを不思議そうに覗き込んで、慰めようとしてるのか手を差し伸べる。青龍は二人を強く抱き締めることしかできなかった。
気を持ち直していればいいが。青龍があまり清清しくない朝にしたところで、その湿った雰囲気を吹き飛ばすような小貴龍の声がした。
「せせせせせ青龍様!」
「どうした」
「興龍さんが」
あとはぱくぱくとするだけの小貴龍の後ろから、興龍が一礼して入ってくる。その頃にはその部屋には姚妙や驪龍もいて、仁羅も美麗の体から抜けていたが、一同も面喰らって興龍を見た。興龍の二対角は淡い黄金に輝く。
「ほ」
仁羅が声をあげた。
「興龍修とやら、お前様には義覇どののいらっしゃるようじゃな」
「…そのように承っております」
興龍は龍神に話し掛けられて身をただした。
「妾達がまだ地に足つけておったころの戦において、義覇どのは両手に一振りづつ剣を持ち、近寄る敵を薙いだものじゃ」
仁羅は嬉しそうに昔を語るところで、美麗は興龍に少し歩み寄って、
「…」
龍神の宿命を持つものはよりましの宿命も悟らない内から集うものなのか。しばらく呆然と、彼を見た。そして、カラ元気を振り絞って胸をはった。
「かっこいいね」
「…ああ」
興龍はそれだけ言った。驪龍はそれに何も言わなかった。ライバルが同じステージにまでのぼってきたのが嬉しそうだった。
その日美麗の卵はかえる時を迎えた。
美麗の腕におさまっていた卵は、大人二人がやっと抱える程になり、白い布の上に据えられたそれに、美麗は手を添えて声をかける。
「出ていらっしゃい」
すると、カラがぱらりと欠けて、その穴から角の先が見えた。中で手足を伸ばそうとするたびにカラにはひびが入り、ひびは大きくなっていく。
やがて、カラは自らの重みによってぱかりと大きく欠け落ちた。その大きな穴から、小さいがちゃんと龍神の二対角をはやした男の子が這い出てくる。美麗を見て、笑った。
「かあさま」
声をあげて、手を差し伸べた。美麗は
「いらっしゃい」
とその手をとり、抱き上げて、そのまま泣き崩れた。
その子のために小さく宴席が設けられ、かねてより考えられていた名前が青龍から与えられることになっていた。
「ほんに、よい子を生んでくれた」
仁羅が泣きそうな顔で喜んでいた。
「よい目じゃ、安心して妾達も後事を託せそうじゃ」
美麗は、斉龍(青龍の子・♂)の服を借り受けて、子供に着せている。
「肉体を持つ九柱目の龍神じゃ。いずれとおきみおやに嘉されようぞ。
ほんに、妾がもっとしっかりしておれば、お前様にこんな辛いことを押し付けることはなかろうものを」
「いいのよ。事情はどうであれ、この子は私の子供よ、愛情を捨てるなんて、そんなことはしないわよ」
「その子は、本当なら、妾が地に足をつけておった頃、妾よりうまれるはずだった」
仁羅の意外な言葉に、止め紐をかける手をとめて、美麗は背中の仁羅を振り返った。
「え?」
「伝承には残っておらぬよ、智覇どのにも打ち明けておらなんだからな」
「やっぱり、『素人間的生殖』ってやつで?」
「まあな。
ま、自覚はあったが立ち居に困る程でなし、なによりあの方のそばに居りとうて強いて隠しておったら、案の定流れおった。
妾より無事にうまれていれば、妾達と同じようによりましをたてることができたのだが、珠を媒介にせざるを得ぬ以上、珠を持たない赤子はどうにもならぬ、仁羅のよりましの胎の中で妾と智覇どのが天地の気を与え、よりましともども生まれてくるようにせぬ限りこの世に存在することができないのじゃよ」
「不便ね」
美麗は子供に服を着せ終わって、遊びに駆け出すのを見送ってから、はたとした。
「そういえば、九柱目の龍神として、後事を託せるって、どういうこと?」
「うむ。九柱の龍神を擁するのが本当の八珠龍神、逆に言えば、八龍神は九柱いないと意味がない」
とはいえ、美麗にはすぐその意味が飲めず首をかしげた。
「妾は智覇どのほど意地悪くないから、ちゃんと教えてあげようの。
数には一番大きくわけて、ちょうど半分にできるものとそうでないものがある。
ちょうど半分にできるものは不安定として凶、ひとつどうしてもわけられないものが残る場合、安定として吉とする」
「じゃ、八龍神は不安定ってことになるの?」
「ところが、例外があって、八は吉なんじゃ。ここではな、吉の極みの九を乗せる台じゃから」
「八龍神の意味って、その九をのせるってこと?」
「さよう。九柱めの龍神の本当の勤めは、妾達八龍神が絶えたあとにある」
「!」
美麗はは、と口をおおった。
「それって、みんな、死んでからって、こと?」
「肉体はな。もともと天地の気が凝って作られたのが我々じゃ、もとの姿に溶けるだけじゃ。八龍神のよりましとなったものは、その勲をば龍神本体の陪神(付き人の神)と封ずることになっておる。
もちろん、今回ばかりはその原則も通用せぬとは思うがな」
仁羅はしんみりとして、
「この間の祭祀はこたえた」
と美麗の背中に戻る気配だ。そこに子供が戻ってきた。
「かあさま」
走り寄って手を差し伸べる。抱き上げると、その重さはじんと腕を痺れさせた。
「この子が少しでも幸せになれるように、私達が何とかしなければならないのよね?」
美麗は言うが、仁羅の意識は閉ざされてその返答は聞けなかった。美麗はわが子に頬をよせた。

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