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「いや、かたじけない維紫殿、こんな合戦の最中と言うのに」 「何分戦場なので応急手当しか出来ませんが… 終わったら、ちゃんと手当てしなおしてくださいね」 深く切られた同僚の副将・王平の傷に、取り急ぎ布を巻きつけ、維紫は言う。 「それから、これを」 「は、補給ですか」 「腹が減っては、ですから」 「では、遠慮なく」 差し出された肉まん二つを、一つは口に、一つは手にして、王平はまた敵の中に突っ込んでゆく。 「…あんなに突っ込んで行ったら、また出番がありそうね」 維紫はとりあえず回りの小道具をしまい、槍を手挟む。 「それで問題は…将軍がドコに行っちゃったかってことなんですよね…」 「よいか、遅れずついて来い」 という趙雲の言葉にたがわず、維紫は夜目にも白い鎧と竜の尾のような髪を一所懸命に追いかけた。同じ副将といっても、王平のように単独行動が出来るほど実力も体力もないのだからなおさらである。 「将軍〜趙将軍〜」 わたわたわたわた、戦場を走ることしばし、趙雲は、敵拠点の扉を守る門兵長と戦っていた。 「何をしていたんだ」 「はい、王平様が傷を負われたのでその手当てを」 「なるほど。しかし、その間に私とはぐれてしまってはお前が危ない」 「はい…現に、しばらく探してしまいました」 「体力はあろうな?」 「はい、なんとか…いたたっ」 以上の会話、すべて門兵達と戦いながらの会話である。趙雲は体力の温存がうまい。その代わり維紫はすぐに傷だらけになってしまう。 「修行が足りん」 一度それで愚痴をこぼしたら、将軍は一言で終わらせた。 とにかく、最善の方法。それは上官に不即不離についてくること。 そうすれば、 「これで回復するんだ」 と、何かしらもらえるからである。みみっちい気もするが、そうでなければ生き延びられないのだ。 そんな時、敵の兵士が肉まんを落とした。体力がそろそろ危ないな、と思っていた維紫にはありがたい、それを拾い上げると、 「よし、ここで休憩を…」 と、丁度趙雲が補給の肉まんを出したところだった。しかもふたつ。 幸いに、敵の姿は遠い。二人で三つの肉まん。とりあえず、一つずつ食べる。 「維紫、お前のほうが体力がすぐ切れるのだから食べておけ」 「私は大丈夫です。将軍も、お疲れだから休憩を取られたんでしょう?」 はた、と一個の肉まんを間に対峙して、つぎの瞬間には二人で笑っていた。 「何も悩む必要はない」 趙雲は最後の一つをおもむろにとりあげ、ためつすがめつする。何をしているんだろうと思いながら維紫がそれを見ていると、 「この辺りだな」 と、彼はおもむろに半分に分けた。 「ほら」 「…は、はい」 維紫が不思議そうに半分の肉まんを食べる間、趙雲は噛んでいるのかどうかも怪しい速さでそれを飲み込んで、ぐるりと左右を見回している。 「食べたか、なら行こう」 「はい!」 「将軍?」 「なんだ?」 「さっき肉まんを半分にされるとき、随分お考えだったようですけど」 「なんてことはない。皮と餡が丁度等分になるところを探していただけだ」 「…はぁ」 妙なところにこだわるものだ、と、維紫はぽかん、とする。 「後で皮しかなかったと恨まれたくないからな」 趙雲は至極当然のように言って 「どうかしたか?」 と維紫に尋ねる。 「いえ、何でも…」 「ならば急ごう。また王平がどこぞでお前の手当てを待っているかもしれん」 「はい」 戦場というせわしない場所なのに、皮と中身を等分になるよう肉まんを分けようとするなんて、なんて律儀で公平な将軍なんだろう、と、維紫は思ったのだが、戦場でそんなことを気にする趙雲も趙雲で、感心する維紫も維紫だった。 |
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