サヴァものがたり〜tale of Saba〜
<清原のコメント>
いやあ、ケルト神話でいちばん好きな話です(笑)。
昔、何かで読んでずっと心に引っ掛かっていた物語でしたが、FE聖戦をプレイしている間にこの物語に再会し、「こ、これはぜったいフィンラケに違いないっ」という妄想によって現在まで来ております。
フィン・マクールはケルト中でも第一級の英雄で、いろいろ物語も残っています。でも、この物語のフィン・マクールにもうメロメロです。かっこよすぎ…(いや、ノックメニイも好きなんだが)
だから、この物語でフィン好きになったあなた、「デルムッドとグラーニェ」を読むと、ほどほどに遺憾な部分を感じられるかもしれません、がっ……それはそれ、これはこれ。(ぜえぜえ)
『ケルト・ファンタジー 英雄の恋』(浪書房)
『ケルトの神話』(ちくま書房)
の各文献(文章はどちらも井村君江(敬称略))を参考に清原が再構築しました。
でもなぜか、「良い妖精」がベランメェ口調になってしまうのです。(笑)
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フィン・マクール(以下フィン)は、ターラという一帯をおさめる王アルドリーのもとで、かつては父もその首領であったという騎士団「フィアナ騎士団」を率いていました。
彼らは、平時、森の中で狩りをすることを戦闘の訓練としていましたが、ある時、そんなフィン達の前に、一匹の子鹿が現れました。フィアナの面々と、フィンの猟犬ブランとシュコランは子鹿を追って森の中に入っていってしまいましたから、やむなくフィンもその後を追ったのでした。
そころが、一行に追い付いたフィンが目にしたのは、その子鹿と戯れるブランとシュコランの姿だったのです。子鹿もこの二頭の犬に心を許している様でしたので、フィンは事態をブランとシュコランに預けることにしました。
子鹿は、ブラン達のあとを着いて来て、とうとうフィンの館までやって来てしまいました。
「ブランやシュコラン、そしてこの子鹿にも、何か思うところがあるのだろう」
とフィンは考え、子鹿をそのまま館においておくことにしました。
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その夜のことです。
眠っていたフィンは、何かの気配で目を覚ましました。すると、美しい女性が一人、まくらもとに立っているのです。
「今日は、有り難うございます」
「え?」
「私は、今日ここにやって参りました子鹿です。あなたのお心づかいでかけられた呪いがとけたのです」
もと子鹿だったという、このサヴァという女性の話は、それは不思議なものでした。
サヴァは森の妖精でした。一人の妖精に想いをかけられたのですが、サヴァはそれを拒みました。すると、妖精は魔術で、サヴァを子鹿に変えてしまったのです。
「いいかねサヴァ。心を入れ替えて私の愛を受け入れるというのなら、私はいつでもその魔法をといてあげよう。だが、そのわがままを通しているうちは、そのつもりはない。森の中で狼や猟犬に怯えながら、よく考えるのだね」
サヴァには、悪い妖精の愛を受け入れることなどまっぴらでした。サヴァは三年森をさまよい、ある時、別の妖精に出会いました。
心の優しいその妖精は、サヴァの身の上を大変可哀想に思ってくれました。
「よし、その魔法なんとかしてやる」
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(清原:ファンタジーの魔法というのは、往々にして、呪いの意味が強い程、「かけた本人にしかとくことが出来ない」のであります。眠り姫の物語でも、そもそも死ぬ運命が百年の眠りになったというのはよく御存じでしょう。あれは、「本当は死ぬはずだったんだから、眠るだけですんで良かったね」ではなくて、「本当は目を覚まさせてあげたいけど、魔術をかけた人間でないからそこまでしか出来なかった」というのが正解なのです。)
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「アレンというところに、フィン・マクールという男の館がある。ターラの王様が頼りにしている立派な騎士だ。そこにお前さんが無事迎えられたら、お前さんにかけられた魔法は一応解ける。
しかしなサヴァ、忘れるんじゃないぜ。この魔法のとけ方は完全じゃない。館から出たら、お前さんはまた、その子鹿にもどっちまうんだぜ」
心の優しい妖精は、そうくれぐれも言い含めて、サヴァにかけられた魔法を中和しました。
「あなたのお持ちになっているブランとシュコラン、その二頭の猟犬は、聞くところ、あなたのお従兄弟。人間の心の分かるかれらは私の訴えを聞き入れて、ここまで案内してくれたのです。」
「ではサヴァ、私の館から出たら、あなたはまた鹿になってしまうのですか」
「はい。ですが、私はそんなこともうイヤです。どうかここにいさせてください」
こうして美しいサヴァはフィンの館にとどまり、そのまま二人夫婦となって、それはそれは甘やかで幸せな時間を過ごすようになりました。
ところが、その幸せな時間がとつぜん断ち切られる時がやって来たのです。
***
北の方から敵がやってくる。そういう知らせを受けては、フィンもフィアナ騎士団を率いて出陣をしなければなりません。
愛しいサヴァを館に残して、フィンは仲間達と、七日間、勇敢に戦いました。
そして八日目、館に帰って来たところで、サヴァの姿はありません。
フィンからサヴァのことをたずねられた執事はこんな話をしました。
「お館様が戦に出られてからというもの、奥様はお部屋からずっと外を眺めて、お館様のお帰りをお待ちでございました。
三日目、のことでしたでしょうか。お館様がお帰りになったのです。ブランやシュコランの声も聞こえました。奥様はたまらず走りだされたのです。
ところが、そのお館様は幻だったのです。幻でなければ、どうしてあのような仕打ちを奥様にできましょうか。
幻のお館様は、もっていたハシバミの杖で、館を飛び出された奥様を打ちました。奥様の姿はみるみる小さな鹿になってしまわれました。幻のお館様は、幻のブランと幻のシュコランに鹿の奥様を追わせながら、再び森の中に戻っていったのです。
私どもも懸命にその後を追ったのですか、いつのまにかそのお姿もなくなり、それ以降、奥様の行方は分からなくなってしまいましたのです」
フィンはしばらくの間自分の部屋に閉じこもってしまいました。そしてブランとシュコランをつれて、森の中をサヴァを探すようになったのです。毎日、毎日、いなくなったサヴァを探して、七年の年月が過ぎてゆきました。
***
フィンが仲間と一緒に、ベン・バルベンという森で狩りをしていたときのことです。
連れている猟犬達があまりに騒ぐので、フィンがいぶかしく思いその場所を尋ね当てると、大きな木の下に、髪の長い男の子が一人倒れていて、ブランとシュコランは、他の猟犬からその子供を守ろうとしていたのでした。
フィンを見上げて可愛らしく微笑むその子供の顔をよくよく見て、フィンは直感したのです。
「……オーシン!」
この子供は、きっと、いなくなったサヴァが宿していた自分の子供に違いない。フィンは子供に「オーシン」と名前をつけ、自分の館に連れ帰ったのです。「オーシン」とは、子鹿のことです。
***
オーシンは、初め、言葉をしゃべれませんでした。それでも、だんだんと言葉を覚えるうちに、自分の生い立ちを話しはじめました。
気が着いた頃には、オーシンはもう、森の中にある洞穴で暮らしていました。
「僕を育ててくれたのは、一頭のやさしい鹿でした。僕は鹿と、たのしくくらしていたのです。時々、怖い顔をした男の人がやって来て、その鹿を虐めるほかには。
でもあるとき、その男は、僕を育ててくれた優しい鹿を森の奥深くまで逐っていってしまいました。僕はその後を必至で追い掛けたのですが…
追いつけなくて、あの場所に倒れてしまったのです」
オーシンを育てたという優しい鹿、それこそが、フィンの館を出ると人間でいられないいなくなったサヴァなのだ、と、フィンは思いました。だから、オーシンを実の息子として迎えたのです。
***
オーシンはその後、立派に成長して、フィアナ騎士団の中でも屈指の騎士になり、父フィンを助けました。
しかし、いなくなったサヴァの行方と、彼女をいじめていたという怖い顔をした男の正体は、結局分からなかったのです。
<サヴァものがたり おしまい>
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