Gland Epilogue


 大陸に光が戻ったと言うことについては、私の言葉でのべ直すことではない。
 そこで我が身を見失って、我がごとのように喜ぶこと、それがすべてではないだろう。
 私に与えられた使命は、私が託されたことをただ果たすことのみ。
 そのすべてが、はや私の手を離れようとしている。。
 集っていたものたちは、それぞれにゆかりの土地に赴き、新しい国を造り直される。
 セリス様は、グランベルを。
 リ−フ様は、トラキア半島を。
 アレス様は、アグストリアを。

 陛下。
 私は、そのお心づもりにかなった男でございましたでしょうか。
 陛下がその最期に、渾身の力で御手のうちから天に投げあげられたその珠を、果たして陛下が望んでおられたように、輝きや値うちだけにとらわれることなく、ただ、愛でていることができた男でしたでしょうか。
 私は、御隠れになった陛下よりも、いつのまにか長い時間を生きてしまいました。
 いずれ、おそばに参りましよう。その時初めて、この義弟を直に御覧になって、はたしてほめて下さいましょうや、否や。

 新トラキア王国の建国が宣言されてたらそう時間もたっていないころ、リ−フ様がこうおっしゃった。
「お前には、これからも、私の側にいてほしいんだ。何かに迷った時、意見を欲しいんだ。
 今までとは比べ物にならない、長い静かな戦いが始まるよ。その戦いを、やっぱり、お前と一緒に乗り越えて行きたい。
 だから、今のうちに時間をやろう。何年でも、好きなだけ、お前の時間をお前のために使うといい」
だから私は、ほぼ初めてといっていい、自分の意志で何かをしようと思い立った。私がすべき、唯一のことを。

 行く先はイードと言うだけで、皆暗に私が何をしようとしているのか、察しているようだった。
 出立の日に、ナンナが小さな箱を手渡してくれた。
「これは、お前が持っていないさい。母上がお前に残した、たった一つのものなのだから」
と言うと、
「いえ、これはお返しするのです」
と、ナンナは、実に含蓄のある微笑みをした。
「 わたしは、リ−フ様を助けて、お父様がいらっしゃらない間、自分を鍛えようと思います。いつまでも、小さなナンナではいませんわ。
 それに…イード神殿のことを、お父様も聞いたはずです。だからこそ…今回のこと、思い立たれたのでしょうから。
 …旅の安全と…吉報を…リーフ様とお待ちしています。これをぜひ、もう一度、お母様に」

 沙漠に入る前の夜、イードに沈む夕日を見た。
 白い砂を真っ赤に染めて、紅が天に高く映える。
 出立を決めた隊商が、列をなして、沙漠に入ってゆく、その影がながくひかれてゆく。
 その紅も、かつて御覧になっていたかと思うと、死の砂と言われるこの沙漠の夕日も、満更悪いものではない。
 振り返れば、月が、淡い恥じらいの色を秘めながら東の空に差し掛かってくる。いずれ、白い光が、沙漠の熱をさましてゆくのだろう。

 その月の下のどちらに、そのかなしきばかりのお姿はありましょうや。
 わが王女。
 伝え切れなかった気持ちばかりを供にして、私も歩いてゆくことに致しましょう。
 貴女を、探しに。




<そして君を探しに行く・をはり。>