新春特別企画・壁紙お題話

雨の夜と淋しい午後は

文責・清原因香Yoruka KIYOHARA

さあっと、窓を叩く音がして、私はハッとその方を見遣った。
…レンスターに、また、この季節が巡ってくる…

「雨は嫌いよ、薄暗いし、肌寒いし、外に出れば濡れるし」
そうほおづえをつかれながら、おっしゃった。
「天気なら、晴れが一番よ、明るくて暖かくて」
私がそのお言葉に、
「晴れと雨が程よい具合にあってこそ、作物も実ると言うものではありませんか」
とかえすと、ご気分を害されたか、
「それは、そうだけれども、雨なんて、気分が良くないじゃない」
とおっしゃった。
「雨が降れば、畑を耕すもの達には骨休めになります」
「…もう」
やはり、雨と言うものに相当に、ご気分が優れないらしい。
その気配がするすると、音もなく私のもとに近付いてくる。
「何を読んでいるの?」
「徒然のお慰みになりますかどうか。ごらんになりますか?」
「もう、ただでさえ気が滅入る日に訴訟の書類なんて読んで!」
かつかつかつ、と足音が遠のいて、やがて聞こえなくなった。

私はそのまま、決済すべき書類の片端から片端にまで眼を通した。
気がつくと雨が上がっていて、夕方近い太陽の光が、斜に窓に入っているのを見た。
ふと、御機嫌を損ねたままにしていたことを思いだした。
どこに行かれたのか、城中を捜しまわってしまった。
やがて、お外に出られたらしいとの話を聞いて、私は前庭に飛び出していた。
そこかしこ、石畳のひずみに雨がたまっているのを何度も踏み付けた。
四阿に、隠れるように、そのお姿があった。
近付くと、眠っておられるのか、身じろぎもされない。
傘もさされずにここまでおいでになったものか、金の髪に雨の粒が残っていた。
水晶の粒をまいたように、傾く太陽が差し込んで、ちらちらと輝く。
あまりお気持ちのよさそうにおやすみなので、つい言葉をかけ倦ねてしまう。
そのうち、まぶたがふるえて、はしばみの瞳が私を見据える。
「…あまり来るのが遅いから、眠くなっちゃった」

雨上がりの空気に冷やされたか、お手がとても冷たかった。
つい、それがおいたわしくて、自分の手を重ねて暖めてしまった。
「お戻りを。お風邪でも召されたら城の者が心配いたします」
「やっぱり私、雨の日は好きになれないかも知れない」
「雨には雨の風情がございましょう、私にはわかりませんが」
「そうね、こうして、手を暖めてくれる人がいるならば、まんざら悪くないかも」
「…そう、ですか」

今日も、雨の中、小さい影が楽しそうに遊んでいる。
そのうち、小さな手を真っ赤に凍えさせて帰ってくるだろう。
その手を包んで、あたためる時の、あどけないはしばみの眼差し。
淋しきは雨降る午後と、だれが言いはじめたものか。

をはり。

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