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フィンラケ関係で小ネタを4つ

2006年8月まで某サイト様の主催でやっていた「フィンラケ10周年祭り」の掲示板に書き込みしたものです。

・セイレーン時代(だと思う)のもの
  点々。
  名前を「よ」んで
・カップリング成立前(おそらく)のもの
  妄想お帰り会話
  He meets him.
それぞれの解説


□点々。

 ラケシスはその朝は、がんばって早起きした。
 いつもいつも(中略)いつも、起きるとフィンはいないからである。
 でも今朝は違う。隣を見ると、フィンは仰向いて、少しだけ首を自分のほうに傾けて、健やかに寝息を立てている。
「本当はさ」
その顔を見て、口の中でラケシスはぷつぷつと呟く。
「ほかの方の旦那様みたいに、起きるのまで見守ってくれて、おはようのちゅうがほしかったりするのよ」
きこえているのかいないのか。見たときと同じ格好でまつげ一本動かさないフィンを、まだ分厚いカーテンが朝の光をさえぎっている薄明かりの中じいっとみて、
「でも今日は私の勝ちだわ」
ラケシスは、自分がされたいそのおはようのちゅうをしようと、唇をほほに近づけた。
 が、次の瞬間、ラケシスはぱっと唇をはずす。
「なに? なにいまの、じょりってした…」
そんな声にも起きない彼の顔を、あらためてまじまじと見る。点々。頬に点々。しかもいっぱい。こんな点々、あったかしら?
 もしかしたら、文字通り触れてはいけない問題なのかもしれない、
「ねたふりねたふり…」
また布団にもぐってじっとしていると、ふと隣で身じろぎがあり、ラケシスの片頬が一斉にじょりじょりじょりっ…とした。
「………!!」
その声にならない声で、今日の一日が始まりそうだ。
 メイドたちが、あの点々について、ラケシスに納得してもらえる説明ができるのに、その日昼までかかったとかどうとか、メイドの当番日誌には書かれている。

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■名前を「よ」んで

「簡単…な名前じゃないけど、呼ばれて減る名前でもなし、どうして呼んでくれないの?」
「…無理に呼ばせようとして私が困るのを期待しておられるのでしょう」
「ひっどい、そんなつもり全然ないのに」
「私は、そう呼んでしかるべき品性があり、また敬愛の念を貴女に持っているからこそ、貴女を『王女』とおよび申し上げているのです」
「…なんか、うまくはぐらかされた気がする」
「気のせいです」
  (そのまましばらくお待ちください)
「ねぇ」
「何でしょうか」
「おじい様の本で、古くて読めないの、この項目なんだけど、ちょっと読んでくれる?」
「はい…ええと…
<モイラmoiraは元来《割り当て》の意味を有し…(中略)…運命の女神として擬人化され、ヘーシオドスではすでにラケシスLachesis《配給者》、すなわち運命を割りあてる女、クロートーKlotho《紡ぎ手》、すなわち運命の糸を紡ぐ女、アトロポスAtropos《変えるべからざる女》、すなわちその糸を絶つ女の三人が考えられている…(後略)>
 ………(はっ)」
「ありがとう。よんでくれて」

素直になれよ、少年。

参考文献:高津春繁『ギリシア・ローマ神話辞典』

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□妄想お帰り会話

『フィン卿、帰還! 損害微小、ご本人も軽症、ライブの準備を!』
その声にあわててライブの杖を用意しはじめたプリーストやシスターをかきわけて、
「だめだめだめぇっ!」
とラケシスが自前のライブの杖を持って飛び出した。
「その人のライブは私がするからだめぇっ」
けが人を救護に預け、自身も下馬したフィンは、その勢いに青い目をぱちくり、とする。
「あぶないから先にお城に入ってろって言われて、すっごく心配したんだから…」
「この通り、生きて帰ってきましたよ」
「わかってる。
 でも、怪我してるんでしょ。どこよ」
フィンの体をぐるぐるぐる、と見て回って、やっと、彼の、ヒザ上まである乗馬靴の上に、真っ赤な斬れ裂きがあるのを見つけた。
「う、うわ、血が出てるっ」
「私も人間なんですから、斬られれば血が出ますよ。
 うかつでした、周りをを取り囲まれて、突破しようとして、歩兵にやられました」
「説明はいいから、ライブするわよっ」

・・・・・

 「よかったぁ、なんともなくて」
フィンのケガはそれだけだった。
「ご心配おかけしました」
「でも、今は私、ライブぐらいしかしてあげられることないから…」(もじもじ・都合よくプリンセス)
「できることをなさればよいのです。
 私は戦果など報告せねばなりませんので、一度失礼します」
「うん」
彼がシグルド達のところに行くのを肩越しに、わずかに振り返るようにして見送ってから、ラケシスは、はた、と視線に気づく。
 振り返ると、遠巻きながら、救護のシスターたちが、ぱたぱたと走り戻る後姿が見えた。
「ちょっと待ちなさい、見世物じゃないのよ、見てる暇があったら治療しなさいよっ
 私も行くから、覚悟してなさいよっ」

 さてさて、何の覚悟か。

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■He meets him.

「兄上、シグルド様も本国に対して努力されてますので、どうかもうしばらくお待ちくださいませね」
「ああ、いい答えを期待していると、あいつにもよくいっておいてくれ」
「はい。
 …失礼いたします」
「(ぴく)ちょっと待て」
「はい?」
「その手は何だ」
「手?」
「お前の手だ。お前が手をとられるなら分かるが、何故お前が手を引いて帰る?」
「え、あ(ぱっ)」
「お前、自分の立場というものを分かっているだろうな?
 あれほど下策と教えた他国への援軍を要請するは、王女自ら従軍して、ノディオンを空のままにしているは…
 まったく、跳ね返りがなかなか治らんと思ったが、三つ子の魂とはよくいったものだ。
 しかもお前は、こんな環境にあるとはいえ、王女だぞ、俺の妹だぞ、縁組のアテも難しいこの時期に、供の男の手を自分から握るな、人が見たらどうする」
「すみません…」
「青いの、そこになおれ」
「は」
「アグストリアの風体ではないな。名と所属・ないしは階級を」
「は。レンスター王太子キュアン(なんたら・フルネーム)揮下の近衛騎士隊に所属しているフィン(なんたら・フルネーム)と申します。現在は、主君よりの特命で、王女護衛をまかされております」
「ほぉ、キュアンの部下か。レンスターは、騎士は貴婦人に手を引かれるのが作法か?」
「あ、あの、兄上」
「お前は黙りなさい」
「はい…」
「…質問に答えよ」
「は。いずれの国でも、騎士は貴婦人には敬愛を持つべきものと存じます。愚考ながら、陛下は錯覚をご覧になったのかと」
「ほぉ、お前が手を取ったのを見間違ったのだと、お前は俺にそう言うわけだな」
「ご明察痛み入ります」
「そうなのか?」
「は、はい、そうです、兄上」
「…まあいい。
 この騎士は、キュアンからの特命にしたがって、ちゃんとお前を守りきれているのだろうな?」
「はい。ずいぶん助けていただきました。キュアン様も、有能で将来に望みある精鋭の一人と、ずいぶん信頼を置いていらっしゃいます」
「…なるほど。
 見知りおこう」
「獅子王ともたとえられるノディオン王陛下の覚えをいただけるとは、身に余る光栄でございます」
「主命を全うせよ」
「お言葉、肝に銘じます」
「言うことはそれだけだ。
 戻るがいい」
「はい、また、お会いできましょうか、兄上」
「すべては時間とわれわれしだいだ」
「…はい」
「王女、お手を」
「…(ぽん)」

「ごめんなさい、ついアグスティでやっていたことが出てしまって…手をとられるより、手をつなぐほうが楽だったから…」
「どういうこともありません、私の説明で陛下もご納得いただけたようですし」
「そうかしら」
「とは?」
「お兄様、そう言うことにはカンがいいのよ。
 どうする? あとになって『お前はもしかしたら妹につく悪い虫かー!』って、ミストルティン振り回して襲い掛かってきたら」
「それは困ります…ですが、逃げることもできません」
「逃げちゃってもいいのよ。ミストルティンなのよ、ご神器なのよ」
「それでは王女を守ることができません、今陛下から賜ったお言葉をたがえることになります」
「…(ぽっ)」
「…王女? 私、何かおかしいことをもうしあげましたか?」
「知らない。帰りましょ」
「王女、ちゃんと説明されてください、それでは私が納得できません」
「教えてあげられないのっ 自分で考えてっ」

*****

「あの男、確か、エバンスに行ったときに見たことはあったが、キュアンが褒めるほどには使えそうな男には見えなかったがな…
 それが今ラケシスの護衛だと? 確かに騎士の作法としてはなかなか立派にこなしていたが、アレに手を引かれたときの顔は全然そんな顔ではなかったな…
 まあキュアンの部下ということは、もしかしたらグラーニェの肝いりでもあったのかもしれんな…
 機会があれば、本当にアレの護衛に足る男か、俺が試すのも一興かも知れんが、むしろ試すとしたら、戦場で守れるかというより、普段の跳ね返り振りをどう制御しているか、というところだな。
 しかし、アレが嬉しそうにしている顔は、ずいぶん見ていなかったな。城に引き取ってすぐの頃は、よくあんな顔をしたものだが…」

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□それぞれの解説

・点々。
 サイト独自設定上では二人は18ぐらいですか、でもまあ、剃っても剃っても伸びてくる、それが現実なんじゃないかと。
(注:サイト設定は掲示板に書き込みということでできるだけ希薄にして、汎用的なシチュになっています)
 しかし、あまりリアルに考えすぎると、これは非常に怖い。
 金髪のラケシスはどう転がっても現実にありえる範疇を出ないけど、青髪のフィンは、産毛までに至る全身青毛ということになりはしますまいか。

・名前を「よ」んで
公式設定ではラケシスのつづりはRackesisですが、独自設定では名前を聞いてすぐ連想できるLachesisをつかいます。(Lachesisは、原語読みではラケシス、英語読みではラキシス、ドイツ語読みではラヘジス、だと聞いたことがあるんですけど、英語はともかく、ドイツ語読みはまじっすか)フィンのセリフは建前で、本音は単に恥ずかしいだけです。逆にラケシスは、書き手が文章にするときにコンバートしてしまうだけで、普通に名前を呼び捨ててます。
 それにしても、これは厳密には「創作」ではないですね、中身のほとんどが参考資料からの書き写しですから。

・妄想お帰り会話。
 まずはこの
、スクリーンショットをご覧ください。(新規ページで開きます。画像が重いです)
 そっけない、そっけなさすぎる。(ラケシスのセリフはただいまver.はツン、おかえりver.はデレと言うことになるんでしょうか)こんなフィンはむしろ後半で見たい(ぉ
 そんなわけで、実際に帰城したらまあこういうこともあったんではないかと、そういう理屈です。
 知らないところで人気者(というか、憧れの騎士様)というのが、うちのフィンの理想です。
 あと、この小ネタ集をページ整形している間に気がついたのですが、こまごまとしたシーンはベクトルがラケシス→フィンの方が面白く書けるようです。

・He meets him.
(前提:うちの創作「僕(ら)の夏休み」はなかったことと考えてください。アレを書いたのはコレの後なので)
 うちのフィンは、ほとんどエルトシャンに会ったことがない(面識はあるが会話をしたことはなかった)ということで、2?3章のブランクの半年の中で、兄妹面会する機会があるとしたら、というif設定でつくってみました。(うちのサイト的には、面会なんかできる余裕はほぼナッシングです)
 それにしても、「フィンはラケシスの護衛だ」というのは、コレを書く分には想定設定のつもりだったんですが違和感なく溶け込んでいるのはどういうことでしょう。
書き込み当時は「エルトしゃんの言葉を『錯覚』で返すとは剛の者ですね」とコメントをもらったものですが、あそこで「実は」とぶっちゃけ話をしたら、間違いなく神器で両断されるので苦肉の策でいちかばちか言ってみたら納得した、と言うあたりが本当のところでひとつ。
 それにしても、鈍感だなぁ… まあ、コレぐらい鈍感なほうが書いてるほうは楽しいですけど。
 そしてお兄様はお見通しなのです。趣味:妹だから。


←そういうこともやっておりましたですよ。
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